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    気持ちは高くスキルは低いお散歩アングラー。
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    僕たちが釣りに行く(行かねばならない)理由

    DATE : 2017.08.13

    CATEGORY : その他


    — 2008年、人類は生息環境に関して重大な決断を下し、いわば一線を越えた。人類史上初めて、都市部に暮らす人の数が過半数を超えたのだ。ある人類学者は陣るに「都市(メトロ)サピエンス」と命名した。
    私たちは実際にそんな種になりつつあるのかもしれない。この傾向には拍車がかかるばかりだ。

    日が明ける前に寝ぼけ眼をこすりながら、もしくは徹夜明けの重い体をひきずって、雪にも夏の暑さにも負けず、どうして僕たちは魚釣りに行くのだろう。
    ふと我に返るときがある。
    時にはその理由を他の人に説明しなければならない場合もあるだろう。
    「だって面白いんだもん」では納得しもらえないこともある。
    その説明が受け入れられるかどうかで気持ちよく竿を振れるかどうかにも影響してくる。

    7月末に出た書籍がそのヒントをくれることになった。
    2013年に発刊した「BREASTS: A NATURAL AND UNNATURAL HISTORY」で話題になったFlorence Williamsの新刊。

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    人と自然との関わり方とその身体的・精神的影響についての科学ジャーナリズム。
    スピリチュアル、精神論と言った論調でなく(それにも一部触れられているが)、バイオフィリア(自然愛)仮説をベースに主に脳波測定や精神的発汗量、コルチゾール(ストレスホルモン)分泌といった生体データを計測する実験などの多くの事例からから自然の効用、特にストレスからの回復、創造性、多幸感へ影響をひもといている。

    原著では本文が

    Whan I pictured Shinrin yoku,”forest bathing,” I conjured Sleeping Beauty in her corpse phase, surrounded by primordal trees, weittering birds and shafts of sunlight
    (シンリンヨク、すなわち「森林浴」と言う言葉を聞くと、鳥がさえずり、木漏れ日が差し込む原生林のなかで、眠れる森の美女が横たわる光景が頭に浮かぶ。)

    と始まる通り、1章は世界でも先進的であるらしい日本の森林浴研究が主題である。
    (「日本人が長時間労働や過労死、通勤地獄、受験・就職・職場での競争やプレッシャーのなかでストレス解消法を研究するのも無理はない」というのがその理由とされているのが皮肉であるが。)
    千葉大学の宮崎教授を訪れ、教授の実験の被験者としてセンサを付けてのトレイルや都市部での散歩を行いながらストレスからの回復など自分自身に起きた”主観的”な結果も記述している。
    今研究では、森林の中を15分以上歩くと血圧等の値が正常値に近づく(いつも高めの人は低く、低めの人は高くなる)”生態調整効果”が紹介されている。
    その後もユタ、韓国、ペンシルヴァニア、、と様々な研究者を訪れ、検証のカバレッジを広げている。

    そう、この著者は”自ら体験する“と言うことが徹底している。
    興味を持った実権があると聞けば世界中どこにでも行って被験者になり(しかし多くの実験で著者のデータは外れ値となっているようだが)、自然の中でのリカバリープログラムがあると聞けばそれが6日間の急流下りという激しいものであっても参加し、レポートをしている。このアンテナの高さ、準備立て、チャレンジ精神は(相当な自然の力を借りずには)真似できそうにない。

    瞳孔の動きがフラクタルパターンであると人間は心地よく感じるらしい
    自然の中のフラクタル構造が導く視線の動きはその心地よさを誘発するのだとか。
    ルアーが踊り、ジグが舞い、魚が泳ぎ、水が揺らめく。
    これらのパターンこそ私たちの心を癒やしてくれる自然の恩恵なのだ(釣り人的拡大解釈)。

    dad fishing on the McKenzie

    本書では、ストレス軽減・気分の安定・心身の健康のためには1ヶ月に5時間以上自然の中に身を置くというのを科学的に導き出された一つの基準としている。
    1ヶ月に5時間。
    釣りに1回行けばクリア。
    しまった。これでは週1釣行の1/4しか説明できていない。

    自然の中へ身を置き自然への畏怖を感じることは、いらだちを抑え、気持ちの上で時間に余裕を持ち、助け合いの精神、ひいてはチームワークをもたらすとのことだ。
    旧来、この役割はもっぱら宗教の役割とされていた。
    しかし自然の荘厳な美によってそれは置き換えが可能となることが分かってきたのだ。
    「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」ということわざがあるけれども、それに従うならば遠くに行くには大自然の中で糸を垂らし、自然への畏怖を感じてこそ、仕事でもプライベートでもより外側へ踏み出していけるのだ。
    それには月一では足りるわけがないじゃないか。
    と言う論法は厳しいだろうか。

    #ちなみに原文に当たると”畏怖”は”awe”だったので、日本語の”畏怖”とは少しニュアンスが違うのでは無いかと思う。

    ところで本書でいうNATUREというのは、ほとんどが緑のことだ。
    森林や公園(都会の中の公園)といったものである。
    この本の表紙のタイトルの色がそうであるように。

    とはいえ海についてもしっかり言及されている。

    調査を続けた結果、特におすすめの場所も分かった。森と海岸だ。とりわけイギリス人は森よりも海岸に足しげく通っている。また、住まいが海に近ければ近いほど幸せになれることもわかっている。エセックス大学健康・人間科学部で行われた研究によれば、イギリス西部の風光明媚な海岸のそばに住む人は、そうでない人と比べて9倍も身体を動かしているそうだ(収入差による影響は調整されている)。疫学者のイアン・アルコックいわく、幸せになりたいのなら、科学に裏付けされたシンプルな条件を満たせば良い。「結婚をして、仕事をして、海のそばに住むことだ」

    なるほど。
    これで冒頭の問いに自信を持って答えられる。
    「なぜならそこに海(川・湖)があるからだ」と。

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    FIELD DATA

    自宅書斎にて。

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